過眠・睡眠に関するQ&A

昼間の眠気は、過眠症の前兆ですか?

 「昼間に眠くなる病気」にはいくつかあります。代表的なものは「睡眠不足症候群」と「睡眠時無呼吸症候群」です。

 「睡眠不足症候群」は、だれでも経験したことがある睡眠不足が長期にわたって続いた結果、発現する症状です。慢性的に眠気におそわれ、倦怠感、集中力の低下など精神活動に影響が出て、治療が必要となります。
「睡眠時無呼吸症候群」は睡眠中に頻繁に呼吸が止まったり浅くなったりする病気です。その結果、十分に睡眠時間をとっても眠りの質が悪いために昼間に眠くなります。

 これらは夜の眠りが十分でないか障害されるために昼間に眠くなるので、眠りや目覚めを調節する機能自体は正常に働いていると考えられます。

 しかし、夜の眠りの長さや質に関係なく「昼間に眠くなる病気」があります。これを「過眠症」といいます。代表的なものに「ナルコレプシー」と「特発性過眠症」があります。
「ナルコレプシー」は脳の覚醒中枢の働きが悪くなっているために、覚醒を続けることができずに眠り込んでしまうと考えられています。覚醒状態の維持と安定をもたらすのは、脳の視床下部にある神経細胞から産生されるオレキシンです。ナルコレプシーでは、オレキシンを作り出す神経細胞が働かなくなることが分かっています。
「特発性過眠症」はナルコレプシーとは逆に脳の睡眠中枢が必要以上に働いてしまう病気と考えられています。脳は覚醒する指令を出しているにもかかわらず、眠ろうとする力が働くために、いったん居眠りをすると1時間以上眠ってしまい、しかもすっきり目覚めることができません。
「過眠症」は、ほかの日中に眠くなる病気と区別するために、睡眠を妨げる原因(例えば、無呼吸や睡眠不足)がないことを検査で確認したうえで慎重に診断します。
昼間の眠気イコール過眠症ではありません。

過眠症は、大きな病院へ行かないと診断がつきませんか?

 過眠症の診断には、睡眠ポリグラフ検査(PSG)と反復睡眠潜時検査(MSLT)が必要です。また、睡眠不足や睡眠時無呼吸等が原因でないことを確認する検査も必要になります。こうした検査設備が整っていないと適切な診断が受けられない可能性もあり、治療が遅れるおそれがあります。また、受診しても、睡眠障害の診断ができる医師がいなければ、てんかんや睡眠時無呼吸症候群を疑われ、適切な治療に至らない場合があります。最近では、病名の認知が浸透してきていますが、早期の診断治療を受けることができる環境がまだ整っていないという現状があります。

過眠症による日中の眠気は、夜間十分に睡眠をとることで軽減しますか?

 夜間は比較的覚醒できるため、起きている時間が貴重になって、夜更かしをしてしまうことがありますが、体内時計(概日リズム)に沿った規則正しい生活を送ることが大切です。また、夜更かしをしてもしなくても、どうせ昼間眠くなるから眠らなくても同じだと考える患者さんもいますが、これは正しくありません。夜間睡眠をしっかりとって睡眠不足のない状態にしておかないと薬の効果が発揮されず、昼間の眠気が悪化します。病気からくる眠気に加えて寝不足や疲労が重なると薬物療法でも眠気を抑制することができなくなるからです。睡眠がうまくとれないと,大脳の情報処理能力に悪い影響が出ると言われています。睡眠不足のとき私たちが感じる疲労感や意欲の低下は,大脳が休息を要求していると考えられています。
過眠症の場合、昼間眠ってしまっても夜間の睡眠はとらなければなりません。

昼間の眠気はうまく仮眠をとることでコントロールできますか?

 昼間の仮眠は30分以内にすることがすっきり目覚めるコツといえます。これは、過眠症のない人にもいえることで、昼寝する時間が長くなると眠りが深くなり覚醒しにくくなります。
過眠症は「起き続けられない病気」です。ナルコレプシーでは、昼休みなどに短時間の仮眠をとるなど病気の特徴にあわせて計画的に休憩・仮眠と夜間睡眠の確保を行うことができれば、治療に役立ちます。また、ナルコレプシーの患者さんは昼寝の持続が10~30分と短く、すっきり目覚めることができるため計画的な仮眠は眠気の抑制に役立ちます。

 特発性過眠症の人では、いったん眠ってしまうとなかなか覚醒することができないため、深く眠らないような昼寝の姿勢を考えて仮眠をとるように工夫する必要があります。

過眠症がある場合、眠り込みやすい時間帯はありますか?

 人間には、「体内時計」という機能があって睡眠と覚醒のリズムを決めています。体内時計には、約1日(約24時間)の周期をもつ「概日リズム(サーカディアンリズム)」、約半日(約12時間)周期で睡眠と覚醒のリズムをつくる「半概日リズム(サーカセミディアンリズム)」、約2時間周期で眠気と覚醒のリズムを繰り返す「超日リズム(ウルトラディアンリズム)」という3つのリズムがあり、これらのリズムが眠気の周期を生み出しています。

 概日リズムでは午前2~4時ころに眠気のピークがくるとされ、半概日リズムでは午前と午後2〜4時ころに眠気のピークがくるとされています。午後2~4時ころは、半概日リズムの周期による眠気のピークと、超日リズムによる2時間おきの眠気が重なるため、強い睡魔におそわれます。昼食後に眠くなるのは、これらの周期による眠気が重なるためです。
特発性過眠症は午後の2~4時ころに眠気がくることが多くみられます。しかし、覚醒しようとする力も働くため、眠いのに眠らないという状態になることもあります。眠っているのか覚醒しているのか判断できないような状態になることもあり、その間の出来事を覚えていないこともあります。眠り込んでしまうと覚醒しにくく、起こそうとした人を殴ってしまうような睡眠酩酊という状態になることもあります。
ナルコレプシーの眠気は特発性過眠症より頻度が高く、2時間ほどの周期で眠くなることが多くみられます。しかし特発性過眠症と違って、気づいたら眠り込んでいてすっきり目が覚めます。2時間ごとに仮眠することで、うまく対処できることもあります。

体育の時間や部活など、運動している最中に眠ってしまうと危険と思われますが、どのように対応していけばよいのでしょうか。

 身体を動かしていると覚醒作用が働くため、眠り込んでしまうことはまれです。
特発性過眠症の場合は、ぼんやりしてしまい、記憶がなくなることはあっても、それなりに身体を動かせるようです。部活では、ルーティーンの練習の場合、半分寝た状態で練習していたとか、ベンチで眠っていたとか、あくびしすぎて叱られた等の声を聴きます。
ナルコレプシーの場合は、急に走ったりすると、情動脱力発作(カタプレキシ―)をおこすことがあるので注意が必要です。また眠気を我慢しているとカタプレキシ―をおこしそのままレム睡眠に移行することがあります。

日中眠いというだけでは病院に行きにくいのですが、治療が必要と判断できる基準がありますか?

 ナルコレプシーは、昼間の耐えがたい眠気(居眠り)、情動脱力発作(カタプレキシ―)、睡眠麻痺、入眠時幻覚が特徴で、発症は10歳代が多く、600~2000人に1人の頻度でみられるといわれています。この病気は、まだ十分に知られていないために、居眠りをする怠け者とみなされたり、本人も自分の意志が弱いと自分を責めて落ち込んだりします。学生のうちは気付きにくく、会社勤務を始めて、仕事に支障をきたすようになって初めて受診するケースが多くみられます。本人が病気と認識していないので、受診が遅れてしまいます。昼間の耐えがたい眠気と情動脱力発作の症状があればナルコレプシーを疑うことができます。昼間頻繁に眠気を感じたり、夜眠れない、朝起きるのがつらい、など睡眠に関する不安がある場合は、睡眠表に記入して記録してみましょう。自分の生活習慣を見直すきっかけにもなりますし、医師に相談する際に睡眠表を提示すると診断に役立ちます。

過眠症の治療法はあるのでしょうか

 根本的な治療法はまだありません。しかし、その症状を抑え、改善することは可能です。治療法は、生活指導と薬物療法を組み合わせて行います。やはり夜間睡眠時間の確保が前提となります。

  • 薬物療法
    日中の強い眠気に対して、眠気を抑える覚醒効果をもつ中枢神経刺激薬を中心とした対症療法を行います。これらの薬剤はドーパミン神経伝達系を増強して、脳を賦活化する作用を持ちます。中枢神経刺激薬のなかには、血中濃度の半減期が12時間、作用時間も8時間と比較的長いものがあり、朝食後に1回飲むだけで済む薬剤もあります。中枢神経刺激薬は夕方以降に服用すると夜間睡眠を障害する可能性がありますので、服用は昼食後までにとどめることが望ましいです。ナルコレプシーの情動脱力発作(カタプレキシ―)や睡眠麻痺、入眠時幻覚に対しては、レム睡眠抑制作用をもつ薬剤が有効です。日本で使用できる薬剤のうち最も有効なのが、第一世代の三環系抗うつ薬です。抗うつ薬として使用する場合より少ない用量で有効な場合が多くみられます。情動脱力発作や睡眠麻痺・入眠時幻覚といったレム睡眠関連症状の特効薬としてよく使われますが、副作用が問題になる場合もあります。
    ナルコレプシーに比べると特発性過眠症は治療反応性が悪い場合や、副作用が生じて十分な薬物療法が難しい場合が多いため、根気強く治療に取り組みましょう。
  • 生活指導
    睡眠表をもとに、医師が規則正しい生活についてアドバイスします。
    • 十分な睡眠時間を確保する(早寝を心がける)
    • 毎日の寝起きのリズムを守る(休日は一旦起きたあと、昼寝をするのがよいでしょう)
    • 平日に仮眠をとる場合には、短時間(20 分以内)で切り上げるとぼんやりしにくいようです
    • 眠る前の刺激物(カフェインの摂取や喫煙など)は避ける
    • 規則正しい3度の食事と、運動の習慣
    など、生活や睡眠の習慣を変えることにより、症状の改善がみられることがあります。

過眠症と診断された場合、日常生活に制限はありますか?

 ナルコレプシーは基本的に薬物療法の有効性が高く、職業選択に大きな制限はありません。ただ長距離運転や高所などでの危険な作業を職業とすることは避けたほうがよいでしょう。

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