「過眠症」といわれる病気

  • ナルコレプシー
  • 特発性過眠症
  • 反復性過眠症

ナルコレプシー

大事な会議で突然居眠り

  • ナルコレプシーはこんな病気
  • 突然眠ってしまう。10~20分くらいですっきり目覚める
  • 驚いたり、笑ったり、感情が大きく動くと突然筋肉の力が抜けてしまう
  • 寝入ってすぐに金縛りにあったり、悪夢を見て現実と混同してしまう
  • 日中の眠気対策には薬物治療が有効
  • 思いあたる症状がある場合は専門の医療機関を受診してください。

特徴

日中の強い眠気 入眠時幻覚(怖い夢) 情動脱力発作 睡眠麻痺(金縛り)

ナルコレプシーは、日中の耐えがたい眠気(居眠り)、情動脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚が特徴で、発症は10歳代が多く、600~2000人に1人の頻度でみられるといわれています。この病気は、まだ十分に知られていないために、居眠りをする怠け者とみなされたり、本人も自分の意志が弱いと自分を責めて落ち込んだりします。また、眠気によって産業事故や交通事故の危険性が高まるなど、社会的にも大きな影響を及ぼします。

日中の耐えがたい眠気や情動脱力発作は、脳の中の視床下部という部位で作られるオレキシンという神経ペプチド(神経伝達物質)が不足しているために起きることが、近年の研究によって解明されてきました。

また、この病気の原因のひとつとして体質的要因があげられます。多くの患者さんが、ヒト白血球抗原(HLA)という白血球の血液型のHLA-DQB1*06:02という特定のタイプを持っていることが知られています。しかし、このタイプの血液型を持っているからといって必ず発症するわけではありません。HLAのタイプがナルコレプシーの発症とどのように関係するのかは、まだ解明には至っていません。

睡眠のサイクル

症状

入試や面接など緊張していても眠ってしまう

主な症状としては、夜間の睡眠の量や質とは関係なく生じる耐え難い眠気です。眠いだけではなく、繰り返して居眠りをします。本人が眠いと意識しないうちに眠りこんでしまう睡眠発作の形をとることも多くみられます。1回の居眠りは10~20分程度で典型的にはすっきりと目が覚めますが、しばらくするとまた強い眠気がやってきます。入学試験中など、本来は緊張して脳が活発に動いている場面でも、強い眠気におそわれ眠ってしまいます。

一方、情動脱力発作は、驚いたり、感激したり、笑ったりという情動の変化によって、意識がしっかりしているのに突然、筋肉の力が抜ける発作です。脱力する部分は全身、あるいは、ひざ、くびに限って起きるなど個人差がありますが、通常は数秒で回復します。例えば、座ってテレビのお笑い番組を見て笑ったら後ろに倒れたり椅子からずり落ちたりしてしまい、話すことができない、といったことがよくみられます。

また、睡眠麻痺と入眠時幻覚はレム睡眠と関連しています。睡眠麻痺では覚醒と睡眠の移行期に意識ははっきりしているのに、レム睡眠の特徴である全身の筋緊張の消失が起きるため、体を随意的に動かせなくなってしまいます。同様に入眠時幻覚は、まだ目覚めていると自分が感じていながら、すでにレム睡眠の夢体験が始まっている状態で、生々しい現実感をもって寝室に何者かが入ってくるのが見える(感じる)、身体の上に重いものがのせられ苦しいけれど動けない、あるいは体が宙に浮いている感覚など、視覚、体感幻覚を中心とした特徴的な幻覚です。一般に強い恐怖感を伴います。睡眠麻痺と入眠時幻覚はレム睡眠関連症状と呼ばれ、この2つが同時に起きることが多いです。

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検査方法と診断

睡眠ポリグラフ検査で他の睡眠障害の可能性を除外し、反復睡眠潜時検査で眠気の重症度と特徴を評価して診断

過眠症の確定診断には、一晩の睡眠を測定する睡眠ポリグラフ検査(PSG)と、日中に2時間おきに行う反復睡眠潜時検査(MSLT)を行います。

睡眠ポリグラフ検査(PSG)は、睡眠時無呼吸症候群など、夜間睡眠の質的な異常を除外するために行います。規則的な睡眠生活習慣をもつ健康な人では一定時間ノンレム睡眠が続いたあとにレム睡眠が生じますが、ナルコレプシー患者の場合は、寝入りばな(入眠後15分以内)にレム睡眠が出現するのが検査所見の特徴です。これは典型的なナルコレプシー患者の約半数にみられます(入眠時レム睡眠期といいます)。

睡眠のサイクル

反復睡眠潜時検査は、眠気の重症度を調べる、唯一標準化された客観的評価法です。1日4~5回日中に昼寝の試行を行いますが、「早く眠りこむ人は眠気が強い」という考えに基づいて眠気の重症度を評価します。睡眠ポリグラフ検査(PSG)を行いながら、横臥させ、消灯したあと眠りに入るまでの時間(睡眠潜時)を測定し、4~5回の試行の平均値を計算します。また眠りこんだあと15分間継続して記録し、入眠時レム睡眠期の出現の有無を判定します。ナルコレプシー患者のほとんどは日中でも横になると平均5分以内(多くは2~3分)に眠ってしまい、非常に眠りこみやすい状態にあることがわかります。また、寝入りばなにレム睡眠が複数回みられるのが特徴です。

治療法と対策

夜間睡眠時間を十分に確保したうえで生活指導と薬物療法を組み合わせて治療

治療は生活指導と薬物療法を組み合わせて行います。夜いくら眠っても日中居眠りするから眠っても無駄、と考えて寝不足になっている場合が多いため、睡眠時間を確保することが治療の第一歩です。特にナルコレプシーの方は短時間の昼寝が非常に有効であるため、昼休み等を使って20分程度の計画的な睡眠がとれるよう工夫します。

日中の耐え難い眠気や睡眠発作には覚醒効果をもつモダフィニルなどの中枢神経刺激薬が使われます。中枢神経刺激薬のなかには、血中濃度の半減期が12時間、作用時間も8時間と比較的長いものがあり、朝食後に1回飲むだけですむ薬剤もあります。中枢神経刺激薬は夕方以降に服用すると夜間睡眠を障害する可能性がありますので、服用は昼食後までにとどめることが望ましいです。なお睡眠不足に伴う眠気が続く場合には、中枢神経刺激薬は効果がなくなりますので、注意が必要です。

情動脱力発作や睡眠麻痺、入眠時幻覚に対しては、レム睡眠抑制作用をもつ薬剤が有効です。情動脱力発作に対しては抗うつ薬の仲間がよく使われます。日本で保険適応があるのはクロミプラミンのみです。抗うつ作用を目的として使用する場合より速やかに、そして少用量で効果を発揮することが多いです。そのためクロミプラミンは情動脱力発作に効果が認められるとしてよく使われます。

ナルコレプシーは基本的に薬物療法の有効性が高く、職業選択に大きな制限はありません。ただ長距離運転や高所などでの危険な作業を職業とすることは避けたほうがよいでしょう。

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患者会

ナルコレプシーは慢性化しやすく、根気強く治療していくことが求められます。日本には40年以上の歴史をもつ「なるこ会」という患者会があります。平成15年にNPO法人日本ナルコレプシー協会(略称「なるこ会」)となり、現在認定NPO法人として、ナルコレプシーおよび関連過眠症患者とその家族などに対し、より治療が受けやすく、患者が安心して生活できる社会づくりの推進、医療発展に寄与する活動を行っています。

監修:本多 真 先生(東京都医学総合研究所 睡眠プロジェクト)

更新日:2018年10月01日

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